「サーモンフライ」で検索するとお料理サイトしか出てきませんね。
色とりどりの羽を使って巻かれた美しい毛鉤のことを調べるときは「フルドレス サーモンフライ」と入力しないといけません。
この本はそのサーモンフライを巻くことに取り憑かれた人たちが巻き起こした事件について書かれた本です。
原題は「The Feather Thief」。
漢字ゴテゴテの邦題よりだいぶシンプル。
羽泥棒。
間違いなくフライフィッシングに関する本です。
著者は駆け出しのフライフィッシャーとのこと。
でも、驚いたことにこの事件を引き起こした人たちは、輝く羽には熱狂すれど、サカナを釣ることには全く興味が無い。
なので、釣りに関する描写はほとんどありません。
彼らは純粋なサーモンフライタイヤーであって、フライフィッシャーではないんです。
フライを巻くのなら当然釣りをするもんだと思ってたら、そうじゃないみたい。
趣味の世界は広いですね。
ほぼ宗教に近い世界です。
バイブル的存在のジョージ・モーティマ・ケルソン著「The salmon fly」に記されたパターンを、オリジナルのマテリアルを使って、いかに忠実に美しくフライを巻くことができるか。
この本は、そのことに取り憑かれた犯人とそれを取り巻く人たちが起こした盗難事件のルポルタージュで、そこにフルドレスサーモンフライの歴史や鳥類に関する自然博物史、そして現代のマテリアルコレクションネットワークやタイヤーコミュニティの話など、様々な要素を巧みに取り入れているので、どんどん引き込まれて一気に読んでしまいました。
ただ、ラストがなんとなく尻窄み気味だったのは、これがフィクションではなくあくまで現実の出来事だから致し方ないのかな。
フライフィッシャー=ナチュラリストの傾向が強いと思っていますし、自分自身もそうありたいと考えているので、この本に登場するサーモンフライタイヤーたちの行動はやはり認め難くはあります。
しかしながら、今でもタイイングのマテリアルは野生動物に頼る部分も多く、自然保護の精神に反する部分がないかといえば決してそうではないわけで。
例えば今のところはまだ手に入るポーラーベア。
一昔前にラグとして輸入されていたホッキョクグマの毛皮をマテリアルに再利用しているのが現状のようです。
この状況は、エグレットという鮮やかな鳥の羽で飾った帽子を探し求めたサーモンフライタイヤーたちと近いものがあります。
自分に置き換えてみると一概に犯人を責められないとも思うわけで、読み物として面白いだけじゃなく、色々と考えさせられることも多い本でした。
フルドレスサーモンフライを巻いてみたい。
この本を読了後は、それがまるでフキンシンなことに思えてしまいますが、自分の中のやりたいことの一つとして「ジョック・スコットを美しく巻き額装して飾る」というのがあります。
そのためのマテリアルはもちろん、大前提であるウデがないのが現状ですが。
ただ、マテリアルについては禁制品ではなくとも美しい代替品もあるようですし、古典通りにこだわる狂気さえなければ対応可能なはず。
かつてのように熱帯の鳥の羽は手に入らなくとも世界中から情報を入手できる現在。
オリジナルとは違えど壮麗なサーモンフライを巻けるようになりたいです。
プロショップサワダが無くなる前に足を運んでおくべきだったなぁ、とちょっと後悔。