スピットファイアの魅力

カメラの世界には「レンズ沼」という言葉があります。

 

そこでは10万円以内のレンズなら安いもの、20万円、30万円はザラ。

足を踏み入れたら最後、どんどん金銭感覚が麻痺していき、手元には新車1台分を超えるレンズ群が並ぶようになる恐ろしい世界です。

一眼レフでの撮影に拘っていた時、自分も危うくハマりかけるところでしたが、

F2.8 200mm単焦点レンズのローンが妻にバレたおかげで致命傷程度で足を洗うことができました。

  

趣味の世界には往々にしてそうした沼が、通りかかる者を引き摺り込もうと待ち構えています。

  

フライフィッシングならビンテージタックルの世界がまさにそれ。

著名なビルダーの銘が入ったバンブーロッドやアンティークリールなど、手を出したら最後、

うだつの上がらないサラリーマンの小遣いでは、首が回らなくなること必至。

絶対に手を出すまいと思っているので、今のところ家庭問題に発展することなく済んでいます。

   

しかしながら、最近、片足踏み入れたかな、と思われるモノを買ってしまいました。

それが、復刻版のハーディー パーフェクト スピットファイア仕様。

   

パーフェクト3 1/8 
情けないことにフィールドに持ち出せていません

    

2000年代に限定品として販売されたこのリールをオークションで見つけて一目惚れ。

コロナ禍で釣行費用が浮いていたところにウイスキーの後押しもあって衝動買いです。

   

デザインはもちろんスピットファイアという響きにも惹かれました。

中年の厨二心をくすぐります。

気になったのは名前の由来。

なぜ戦闘機の名前が付けられているのか。

ファンの間では有名なのかもしれませんが、今までハーディーのリールを一つも持っていなかった自分にとって興味を掻き立てらるところでした。

   

ネットで調べたところでは、その由来は諸説あってはっきりしたことはよくわからない。

 

「大戦中、ハーディーが航空機の部品を作っていたことから」

「戦闘機の材料であるジュラルミンを使っているから」

 

このあたりがスピットファイアに繋がる由縁らしいのですが、どれも真偽のほどは依然不明。

 

フライフィッシャー No.169 「スピットファイアーの虚と実」の1ページ

  

そこで手持ちのフライ系雑誌のバックナンバーを調べてみたところ、フライフィッシャーとフライフィッシングジャーナルでそれぞれスピットファイアに関する記事がありました。

以下はそれらの記事からの情報をまとめたものです。

 

まずスピットファイアと呼ばれるモデルは、パーフェクトだけではなく、セントジョージなど他にもあり、外見的に共通の特徴があるようです。

 

・無塗装でシルバーの光沢がある

・施盤の切削跡がありヘアライン加工のような仕上げ

 

調べる前は、銀色で光沢があればスピットファイアだと思っていましたが、表面の塗装を薬品で落としたり磨いたりしたパーフェクトも外見上はピカピカした見た目になるようです。

なので、ヘアライン加工がスピットファイアの大きな特徴。

 

レプリカでもヘアライン加工っぽい切削跡あり

 

確かに手元のパーフェクトにはヘアライン加工がされています。

でも、ネットを見てると、スピットファイア仕様と言われるレプリカの中にも、モデルによってはこの切削跡のないものもありました。

  

本来の「スピットファイア」と呼ばれるものは戦時中の一時期、短期的に製造されたものを指し、復刻版はあくまで「スピットファイア仕様」。

切削跡のある本物のスピットファイアは、意図したものではないとはいえ、大戦中限定モデルを意味するため、製造数も少なく、レアものとしてマニアには人気があるようです。

  

また、ハーディーが第二次世界大戦の最中、軍需産業の指定を受け、釣具製造をかなり制限される中作られたものであることがスピットファイアの特徴として反映されているとのこと。

 

・無塗装であるのは、黒鉛塗料が不足していたため

・物資不足によるものかシングルクリックのものが多い

・刻印が薄かったり潰れていたり、位置がズレていたりするものが多い

 

ちなみにジュラルミン製という噂は事実と異なり、アルミニウム合金製であるのは確実のようです。

 

以上がスピットファイアの特徴。

では、その名前の由来、戦闘機との関連は?

 

フライフィッシングジャーナル No.30 の中にもスピットファイアーについての記事があります

 

結局のところ、絶対的な真実というのはわかりませんでした。

そもそもハーディーが、スピットファイアというモデル名で公に販売したことはないという事実。

では言葉の出どころはどこか、というと釣具店またはユーザー、ファンからのようです。

高く売るために釣具屋が話を作り上げたモデルなのか、ユーザーが愛着を込めて名付けたのか。

本当のところはわからずじまい。

ともかく、その後、この呼び名が一般化したために、ハーディーも同様の仕上げのレプリカを、スピットファイアーバージョンなどと呼ぶようにしたとか。

  

なので由来については推察せざるを得ないんですが、おそらく戦闘機スピットファイアが活躍した1940年代に作られたものであること、そして、航空機の材料であるジュラルミンに似た外見であること、この2点がルーツだろうと僕は考えました。

噂は当たらずとはいえども遠からずってとこですかね。

真実がわからないこともスピットファイアの人気に寄与しているのかもしれません。

   

裏面。シンプル。

 

今回、このリールを手に入れたことで、ビンテージタックルが持つ来歴を調べる楽しみを知ってしまいました。

 

レンズ沼にハマる理由として、新しいレンズを手に入れると写真が上手くなったように思えるのが大きいんです。

でも、古い釣具を手に入れたからって魚がたくさん釣れるようになるわけではない。

だから自分はハマったりはしないだろうとは思ってましたが、ビンテージを集めるコレクターの気持ちが少し分かってしまったような気がします。

 

嗚呼、スピットファイアが欲しい…